海外の不便な地で生活している方々のための家電修理のヒント

第6章 パソコンのトラブル対策

老テクでハイテクを活かす

今日パソコン(英: PC=Personal Computer ; 仏: micro-ordinateur)はすっかり私たちの日常生活に入り込み、家電の仲間入りをしたかの感があります。しかし、一般の家電製品と異なり、品質の未熟なハードウェアとソフトウェアを持ったまま店頭に並び、熟さないうちに商品寿命が尽きてしまいます。現在のパソコンの市場メカニズムでは、性能の不安定な商品を私たちは買って使わざるを得ません。別の表現をすれば、コンピュータ技術は限りない(と思える)理想に向かって常に発展し続ける万年青年のような分野です。

いつ故障するとも知れないパソコンは、バックアップCD-ROM、膨大なマニュアル類、ヘルプデスク、サービスセンターなどのサポートによって品質の未熟さが補われます。このような製品を海外に持って行って使うには、それなりの覚悟と対策が必要です。

  1. ソフト面の対策
  2. ハード面の対策
★「秒進分歩」といわれるこの分野で、私がここに紹介できる知識はごく限られています。皆様からのヒントをお待ちしています。

1. ソフト面の対策

この項目でお話する内容は、世界中どこでも共通の当たり前のことばかりです。良い解説書も多いので、ここでは簡単な話だけにします。

プログラムとデータのバックアップ

言うまでもありませんが、OSやアプリケーションのCD-ROM、データのバックアップ用のディスクと装置などはパソコンと共に持ってゆきましょう。特に酷暑の地域では、時として不可思議なトラブルが発生することがあります。コンピュータというものは、作った人にも、使う人にも、まだまだ分らないことが多くあるようです。

OS、言語、バージョンの相性をチェック

ある有名なアプリケーションの英語版と日本語版との間で、データの互換性が悪くて苦労したことがあります。現地でポピュラーなソフトウェアでも、大きい仕事に使う前にはまず試用し、できたデータが日本語環境でどう動くか確認しておくことをお薦めします。

Windows 2000, XPの登場で、日本語と現地語とを同一パソコン上で混在させることが容易になってきました。かつては、日本語OSと現地語OSとのダブルブートにしようとして苦心したものです。

激安ソフトにご用心

極端に安いソフトウェア(英: much cheaper software ; 仏: logiciel très moins cher)には、違法なもの、動作未確認なもの、ウィルス入りのものなどがあるそうです。

ウィルス対策

出自が不明あるいはあいまいなメディアとは、絶対にパソコンを接触させないことにしましょう。エイズや肝炎の感染予防と同じですね。

通信費を削減する

インターネットを使いたい場合、渡航先国のプロバイダに加入するか、今使っているプロバイダの国際ローミングサービスを利用するか、現地組織のLANを利用できるかなど、決めるにも情報の収集が必要です。初期コストとランニングコスト、便利さ、滞在期間などを合わせて検討します。 国際ローミングサービスを利用する場合、渡航前にパソコンの設定を済ませ、渡航先の都市にあるアクセスポイントに国際電話を一度掛けて、動作を確認しておくとよいでしょう。なお、英語ではアクセスポイントのことをPoints of Presence、または略してPOPと言います。

一般の電話も携帯電話も使えない地域では、衛星電話も選択肢の一つです。ただし通話料は高く(例えば$3/分)、ビットレート(通信速度)はおおむね低速です(例えば、2400bps)。あまりデータ量の大きいメールを送ってくれないよう、関係者に予め頼んでおくといいかも知れません。

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2. ハード面の対策

  1. 電源対策
  2. 雷対策
  3. 高温多湿砂塵対策
  4. 泥棒対策
  5. 空港のセキュリティ対策
  6. スイッチング電源の修理

a. パソコンの電源対策

商用のAC電源を使う場合に問題となる要因として、停電、電圧変動、ノイズなどがあります。とりわけ経済的に貧しい国や地域で、より顕著です。そのような地域では、バッテリー内蔵のノートパソコンが有利です。さらにAC90〜240Vの広範囲で使えるACアダプタが付属していれば、AC電源電圧が少々不安定な場所でも安心して使えます。

AC電源に問題のある地域でデスクトップやタワー型のパソコンを使うのなら、大きなバッテリーを組み込んだインバータ電源(英: UPS; 仏: ondulateur)が必需品です。この装置は停電が起こるとバッテリーが唯一のエネルギー源になります。この時何らかの警告音が出るようになっています。

バッテリーがどれだけの時間持つかは、その蓄電容量とパソコンや周辺装置の消費電力によります。バッテリーが持つ時間内に電力が復旧することが絶対確実な場合以外は、すぐにプリンターを停止し、作業中のファイルのデータを保存して、OSを含むすべてのプログラムを正常に終了させます。

長時間の停電が頻繁に起こる地域や商用電源が無い地域では、自家用発電機も活躍します。管理がしっかりしていれば、商用電源より安定した電源の供給が望めます。

b. 雷対策

パソコンに限らず、ビデオデッキやファックスなどの電子機器も雷から守りましょう。雷鳴が聞こえたら、AC電源プラグをコンセントから抜いてください。電源スイッチを切るだけでは不十分です。電話線もモジュラージャックを取り付け、いつでも抜けるようにしておきましょう。商用電源ラインと電話線とテレビのアンテナ線が、雷によるサージ電圧の三大侵入経路です。

c. 高温多湿砂塵対策

高温と多湿と砂塵を好きな人はあまりいません。精密な電子機器もこれらが苦手です。パソコンは使う時も使わない時も、なるべく涼しいところに置いてやりましょう。エアコンや除湿機を、人のためより機械のために導入することもあるほどです。しかし体や衣服から静電気がパチパチ飛ぶほどに乾燥させては行き過ぎです。

沙漠の周辺の地域では、どんなフィルターをも通過するほど粒子の細かい砂塵が侵入して来ます。地元のエンジニアたちがどのような手段(もしあれば)を講じているか尋ねてみてください。

d. 泥棒対策

パソコンはむやみに人に見せないこと、人の出入りする場に置かないことが基本です。窓やドアを壊して侵入した盗人もいます。某国に赴いた時、あるシステムエンジニアは、「コンピュータ室の窓には鉄格子を、ドアには閂錠を付けるように」と指示していました。

e. 空港のセキュリティ対策

乗客が手荷物を持って通るセキュリティコントロールでは、パソコンのハードディスクやフロッピーディスクに影響は無いということになっています。しかし、チェックインして預けられた荷物は乗客の目に触れないところでさらに念入りに検査されることがあり、金属探知機が放つ強い磁気でディスクが壊れた例があります。

ノートパソコンはどなたも自分で機内に持ち込むことでしょうが、MO、Zip、フロッピーなどの磁気ディスクも大切なものは自分で持ちましょう。また到着後、すぐにディスクを実際に使ってみて動作を確かめます。少しでも壊れてしまったディスクは、データの修復を試みてから、思い切り良く捨てましょう。

f. スイッチング電源の修理

[注意] この項目は、ハンダ付けに自信のある方だけにお薦めします。作業はすべてご自分の責任において実行してください。

今日のパソコンのAC入力電源回路は、半導体回路によるスイッチング電源(英; switching regulator ; 仏: alimentation à découpage)方式が主流です。これは、幅広いAC入力電圧に対応できること、重い変圧器を内蔵しなくてよいので軽量化とコストダウンが計れることなどのメリットがあるからです。他方、電源回路が複雑になって部品の数も増え、一旦故障するとメーカーのサービスマニュアルを持たない発展途上国の修理屋さんには、なかなか歯が立ちません。

こんな場合には、電解コンデンサ(英: electrolytic capacitor ; 仏: condensateur électrolytique)を全部新品に交換してしまうという手があります。ハンダごてによる工作ですが、成功率が高いので腕に自信のある方は以下の手順を参考にお試しください。テスターも要ります。

  1. まず、電源回路の故障であることを、テスターによる電圧チェックで確認する(5V、12Vなど)。
  2. ねじ回しで電源部を開き、明らかに焼けた部品、切れたヒューズなどがないことを確認する。
  3. ハンダごてとハンダ吸い取りウィックを用いて片っ端から電解コンデンサを基板から外す。この時、どのコンデンサ(容量と電圧)がどこ(位置と向き)にあったか、正確に記録しておく。
  4. 基板上のコンデンサを外した部分をアルコールできれいに拭く。基板の裏面でハンダ付けしてある場合は、表裏ともに拭く。
  5. 外したコンデンサと同一の定格の新品を、(できればそのパソコンのメーカーから)入手する。電解コンデンサには、85°Cのクラスと105°Cのクラスがあるので、極力105°Cのクラスの品を入手する。
  6. 新しい部品が手に入ったら、ハンダ付けで基板にていねいに実装する。天ぷら、芋、角(つの)があってはならない。プラスとマイナスの極性も間違えないこと。
  7. ハンダブリッジ(ハンダによる短絡)がないか2回以上チェックする。
  8. 電源部を元どおりに閉じる。
  9. 電源をONにして、再びテスターによる電圧チェックを行う(5V、12Vなど)。
  10. パソコンが正しく動作することを確認する。
電解コンデンサを全部交換しても電源部が正しく動作しない場合は、半導体が疑われます。これより先は、電子技術者の仕事になってしまいます。

余談ですが、上の例のように回路を理解せずに回路をいじることを工作(英: handicraft; 仏: bricolage)と言い、工作だけで修理する人を工作屋と呼んでバカにする人もいます。工作が失敗してから技術者にその仕事を持ち込んでも嫌われます。良い技術者が近くにいる場合は自分でいじらずに、まず相談してみましょう。

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[注意] 修理は、皆様個人の責任において実行して下さい。修理作業を試みた結果、物的または人的にいかなる損失が生じても、私は一切責任を負わないものといたします。特に感電事故を防ぐ為に、作業対象の電気製品の電源コードは、原則としてまず始めに抜いて下さい。金属の腕時計、指輪、ペンダントなどの装身具も外しておきましょう。(小田)

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